大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和37年(く)76号 判決

少年 S(昭二一・九・一〇生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の理由は、第一には、原決定には決定に影響を及ぼす法令の違反がある。原決定は、その掲記に係る非行事実第二において本少年が原決定の日時、場所において高校生風の氏名不詳の者等から金二百円を喝取したと認定しているけれども、右事実については本少年の搜査官に対する供述調書があるのみで他に何等の証拠がないのであるから、少年院送致の決定が保護処分の名において行われるとしても、人身の自由を拘束する点において刑事処分と何等異るところがないところからすれば、自白を唯一の証拠として事実の認定をなした原決定は憲法第三八条第三項の規定に違反するものである。第二には、原決定には重大な事実の誤認がある。原決定は、その掲記に係る非行事実第四において、本少年がH等と共謀して原決定の日時場所においてM、Kの両名から金二千円を喝取したと認定しているけれども、本少年は右恐喝の犯行についてH等と共謀したこともなく、その実行行為に出たこともなく、何等之に関係がないに拘らず之を認定した原決定には重大な事実の誤認がある。第三には、原決定の処分は著しく不当である。本少年の非行性は原決定のいうが如く深刻高度なものではなく、なるほど実母の再婚後夜遊びや外泊など家庭からの逃避行為があつたとしても、今後本少年の祖父○中○郎において監護にあたり更生せしめる熱意を示しているのであるから、在宅保護をもつてしては改善は至難であると断定する原決定は失当である。以上の理由により原決定の取消を求めるため本抗告に及んだというのである。

よつて本件少年保護事件記録(二冊)及び少年調査記録を精査して検討すると、先ず法令違反の点については原決定の第二事実の直接の証拠としては本少年の搜査官に対する供述調書中の自供のみであることは所論の通りであるが、保護事件の審判手続は刑罰を科する手続ではなく、少年法第一四条第一五条等において刑事訴訟法の規定を準用する場合の外は刑事訴訟法に従う必要はないから、自白を唯一の証拠として事実を認定することを禁止する刑事訴訟法第三一九条第二項の適用又は準用はなく、従つてまた自白のみによつて少年の非行事実を認定しても刑事々件に関する憲法第三八条第三項の規定に違反するものではないから所論は採用の限りではない。次に事実誤認の点については、昭和三七年八月二日送致に係る大阪家庭裁判所昭和三七年少第五七〇三号少年保護事件記録によれば所論の犯行は少年の自認するところであるのみならずその他関係証拠によつて原決定第四の事実は優に之を認めることができるから原決定には何等事実の誤調はなく所論は採用の限りではない。更に進んで原決定の処分の当否について見ると、本少年は、幼時実父母が離婚し、実母がミシン工として働き辛うじて生計を維持して来たがその間生活に迫われた実母の本少年に対する監護は十分でなく、昭和三四年八月実母は現在の継父○藤繁○と再婚したが、その頃から少年の夜遊び、外泊、不良交友、不健全娯楽場への出入りが続くに至り昭和三六年七月には、窃盗により大阪家庭裁判所の面接調査を受け、同年八月及び昭和三七年一月には更に恐喝を行い、これらの非行につき同年四月四日保護観察処分を受けながら間もなく原決定第二、第三の非行をなし、右非行につき審判の結果同年六月二五日試験観察の決定を受けたにも拘らず、幾ばくもなくして原決定第四の非行を重ねたものであつて、その不真面目な生活態度は益々積極化の傾向にあることが認められる。そして本少年の保護者の保護態度に徴すると、実母、継父共に指導監護の能力を失つており、祖父○中○郎において少年を引取つて指導する旨を申し出で相当熱意を示しているとはいえ、既に相当程度進行した非行的傾向のある本少年に対し、家庭における保護能力には刑底期待しがたいと認められるから、本少年の環境調整と性格矯正とのためには収容保護の措置も止むを得ないものと調められる。したがつて原裁判所が本少年を初等少年院に送致する決定をしたことは、その処分が著しく不当とは認められない。

よつて少年法第三三条第一項、少年審判規則第五〇条に則り主文の通り決定する。

(裁判長裁判官 奥戸新三 裁判官 竹沢喜代治 裁判官 野間礼二)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例